2013年07月

2013年07月07日

+15/トーコとレン(マグノリア書房にて)

「さすがに無理があるようだ」

 店頭で頬杖を付きながら、トーコが言う。

「それはどういった話でしょうか?」

「君の責任ではないし、仕方がないとはいえ……君の出自について、アイが感付いている」

「それは困りましたね。どうしてでしょうか?」

「星を魔の眼光と言われれば誰でも不信に思うさ。この世界では、星空は闇夜に輝くうつくしい光の粒だからな」

「それは酔狂な慣習ですね」

「……育った世界が違うと、そういった認識のズレが生じるらしい。叔父も始めは苦労したそうだ。言語はなんとかなっても、常識が通用しない」

「そうですね。私も日々、勉学の毎日です」

「帰りたくはならないのか? アチラの世界には。騎士団が心配にならないのか?」

「騒いでも仕様がありません。それに、アチラも長くに渡った戦いが終結しています。私がいなくともだいじょうぶでしょう」

「戦後の復興も大事な使命だと思うが」

「これまで散々と国に使えたのです。しばらくは休暇をいただいてもバチは当たりません」

「意外と強かな奴だな」

 くくっ、と笑みを浮かべてトーコはカウンターから身を離した。

「邪魔したな。頼んだ本が届いたら知らせてくれ」

「わかりました。それでは《勝利の光》にこれを差し上げてください」

 店長はそう言ってカウンターのわきに置いた本を差し出す。
 トーコは顔をしかめた。

「称号で呼ぶのは止めてやってくれ。あれでも少女だぞ」

「彼女は祖国の英雄ですから」

「小学生に付ける称号ではないよ。それで、なんなのだこれは」

「歌唱の教本です。歌を覚えたいとおっしゃっていたでしょう? お役に立てばと思いまして」

「そうか、わざわざすまんな」

「いえいえ。またのご来店をお待ちしております」

in_450thearth at 09:07|PermalinkComments(0)

2013年07月06日

+14/「なにそのリアクション……」みたいな気分です。

「珍しいな、ぼーっとして」

「トーコか」

「先ほどから本のページが進んでいないぞ」

「んん、ぼーっとしてた」

「……」

 冷蔵庫の紅茶をカップに注ぎ、

「バイトは慣れたか?」

「……んー」

「なんだ、その煮え切らない返事は」

「いやさぁ。あの人、どうにもわかんないとこがあって」

「店長のことか?」

「うん」

「日本は初めてだから、いろいろ戸惑うこともあるのだろう」

「そうじゃなくて。あれはなんというか……中二っぽい?」

「は?」

「だから中二病。どーにも中二くさいところがあってさ、変わってるといえばそれだけの話なのかもしれないけど」

「どういうところが」

「七夕が近いじゃん? で、ちょっと『うちでも何かしましょうか』って言ったんだよ」

「笹でも飾ろうかと」

「うん。だけど、店長は七夕を知らなかった。――まあそれは予想の範囲で、七夕について説明したら」

『不思議な行事ですね。夜の星は魔の眼光だというのに。この世界の宗教では、星に願うのですか?』

「ふむ」

「夜の星を魔の眼光って解釈する宗教とか慣習って、どっかの国にはあるわけ?」

「聞いたことがないな」

「だよね」

「なに、彼女は少々特殊な出自だから仕様がなかろう」

「特殊ねぇ。トーコは店長のこと、知ってるわけ?」

「一応は」

「ふーん。ま、いいんだけどさ」

 ぐっ、と伸びをして

「ふぁーあ、やっぱ外で働くのと家事は違うなあ。慣れない労働で疲れちゃった。もう寝る」

「ああ、おやすみ」

in_450thearth at 22:35|PermalinkComments(0)